《これ、そこのお前さんよ》
へ? 僕ですか?
《そうじゃ。お前さんじゃ》
はー、なんですか?何かご用ですか?
《わしゃあ、神様じゃ。なんでも一つだけ願いをかなえてやろう》
えー、ホントですか?
《本当じゃ。なんでも良い。何か一つ願いごとを言ってみなさい》
えー、じゃあ、うーん、なんだろう、一つですよね、う〜ん、そうだなあ、えーと。
《ほれ、言ってみなさい。なんじゃ》
えーと、う〜ん。
《ほれ、ほれ。なんじゃ。何かあるだろう。ほれほれ》
うーん、そうですねえ。
《なんじゃ、ないのか?》
いや、ありますよ。いくつでもありますよ。僕、欲望の権化みたいなもんですから。欲望が服着て歩いてるみたいなもんですからね。でも一つだけですよね。
《そうじゃ。一つだけじゃ》
うーん、一つだけか。なんか選べないんですよね。
《なんじゃ、はっきりしない奴じゃな。何か困ってることとかないのか?》
そうですねえ。僕、走るのが好きなんですけど、右膝の調子が悪くて、ちょっと走ったらすぐ痛くなるんですよね。もっと走りたいんですけど、思うように走れないんですよ。
《じゃあ、その右膝を治してやろう》
そうですねえ。でも、一回治ってもまた繰り返すかもしれないですしね。あ、じゃあ、どれだけ走っても絶対怪我しない身体がいいな。右膝に限らず、絶対にどこも故障しない身体。
《よし、それをあげよう》
でもちょっと待って下さい。それって、ランニングに関係してなくてもいいんですか?例えば、階段から落ちたとか、交通事故にあったとかでも身体は怪我しないってことになりますか?
ランニングに関係した怪我が全くなくなっても、他のことで大怪我したら走れなくなっちゃいますよね。明日いきなり交通事故にあうかもしれないし。
《じゃあ、絶対いかなることでも怪我しない身体ということじゃな》
それ、ありですか?
いかなることでもってことは例えば上空3千メートルから落ちたり、頭の上で核爆弾が爆発しても身体は怪我しないってことですよね。
怪我しなくても、放射能の影響はどうなんですか?それも怪我のうちに入ります?
《え?うーん。ま、それは入らんかなー》
じゃあ放射能の影響で癌になったりするのは入らないってことですか?
だいたい、怪我と病気の違いってどこで線引きするんですか?放射能とかウイルスとか細菌とかジャンクフードのバカ食いとかのせいで、細胞とかそういうレベルで傷つけられたなんてことも言えないですかね。交通事故も、車がぶつかってきて身体を傷つけられたってことですよね。
目に見えるレベルか、目に見えないレベルかの違いじゃないですか?
《いや、それはじゃな・・・(いちいちめんどくさい奴だな)、じゃあ病気も入ることにしよう》
じゃあ、いかなる怪我も病気もしない身体ってことですよね。それって不死ってことになるんですかね。
《いや、年はとるぞ、老化もして寿命が来たら死ぬがの》
ふーん、でも老化して寿命で死ぬっていうのも、ゆっくりとですが、時間の経過でダメージが募っていったり回復する力自体もそれで落ちていったりってことで、外的要因からの影響ってことにならないんですか?交通事故で言うと車っていう外的要因があるのと同じで。重力とか日光だってダメージの外的要因かもしれないですよね、長い目で見ると。詳しくは知らないですけど。神様は全知全能だから、その辺のこともお詳しいですよね。
《え、いや、まあ。えーい!じゃあ不老不死でええじゃろが。それをやろう》
不老不死ですか?怪我も病気もしないっていうのとセットですかね。怪我もしないってことは、ある意味、鋼鉄の身体ってことですよね。例えばなんかものすごい工業的重機とかに誤ってはさまれたりなんかしてもびくともしないってことですよね。
《ま、そういうことじゃな。さらに不老不死。病気にもならん。どうじゃ、すごいじゃろう》
でも、そんな身体になったら、思う存分走りたいとか言っててもなんかしょうがないような。なんか他のことに役立てた方がいいような・・・僕はただ、気持ち良くランニングを楽しみたいだけだったんですけどね、うーん。
《・・・・・》